不眠症は国民病ともいわれるぐらい、睡眠の悩みを抱えている方はたくさんいます。
最近は睡眠の質を高めるためのサプリやアロマなどいろんなグッズが販売されていますが、そもそも質の良い睡眠って何なのでしょうか…? また、どうすればぐっすり眠ることができるのでしょうか…?
今回は私たちが分かっていそうで分かっていない、睡眠に関する疑問を産業医・精神科医であり、金髪&アフロでメディアでもお馴染みの井上智介先生に直接教えていただきました!
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目次
精神科のハードルを下げたくて、活動を開始
―まずは井上先生のキャリアや活動について教えてください。
兵庫県出身で島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動しています。
産業医としては毎月30社以上を訪問し、労働の安全衛生の指導に加えて、人間関係のトラブルやハラスメントなどに悩む従業員にカウンセリングを取り入れた心のケアを行っています。
精神科医としては大阪のクリニックで、うつ病や発達障害などの治療、トラウマのケアにも力を入れています。
―金髪アフロと赤メガネで活動されているのはなぜでしょう?
精神科は暗くて怖いイメージを持たれがちで、一般的な人にとって行きづらい場所でしょう。
また、精神科医は名前と顔を出さないことが結構あって、余計に患者さんの足が遠のいてしまう。
そこで僕は本名で顔を出し、堅苦しくない隙だらけの医師もいると思ってもらうことで、精神科のハードルを下げたかったんです。4年ほど前からこのスタイルで、「大雑把に笑って生きる」をモットーに著書やブログ、SNSなどで心が軽くなる話を発信しています。
睡眠不足になってしまう理由に目を向けてほしい
―日本では睡眠時間を削って活動する人が増えている印象があります。精神科医・産業医としてどう思われますか?
睡眠不足が良くないというのは、皆さん十分に分かっているはず。それでも睡眠を削ってしまう背景に目を向ける必要があります。
仕事ややるべきことが多すぎて睡眠時間を確保できない人がいれば、ネットゲームにハマってしまった人、人間関係に悩んで「明日あの人に会うのが嫌だな」と考えて眠れない人など、それぞれの事情があるでしょう。
睡眠時間が少なくても、日常生活に支障がなければいいかもしれません。
しかし、朝起きれずに会社に行けなかったり、昼間に居眠りしたりしていたら問題です。
長時間労働や人間関係、ゲームなどで睡眠時間が少ない現状をひとりで解決できなければ、早めに誰かにSOSを出してアクションを起こすことが大切です。
職場の悩みなら精神科医や産業医、一緒に働いている人などに相談してすれば、解決の糸口が見つかる可能性があります。
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精神的な不調が出るときは、睡眠障害が出ている時
―早めのアクションが大事なのですね。
僕がみている限り、実際にアクションを起こすきっかけは「病気」になってからというパターンが非常に多い。
睡眠不足は脳卒中や心筋梗塞など命にかかわる病気につながるリスクが上がり、急に倒れるケースも。
もう少し早い段階でアクションを起こして睡眠を改善できていれば…と残念に思うことも多々あります。
日本人はちょっと調子が悪いくらいでは立ち止まらずに無理をする傾向がありますよね。
―井上先生が相談を受ける人は、睡眠のトラブルを抱えていることが多いのでしょうか?
そうですね、精神的な不調が出るときは、ほとんど睡眠障害を伴います。相談者によっては、初めから「会社のAさんが嫌で辛い」と悩みを口にする人がいたり、「最近眠れないんです」と言われる人がいたり。
人間関係の悩みをいきなり医師に話しにくいと感じる場合は、睡眠に関する症状から話していただけると入りやすいのかなと思います。
睡眠は「質」と「量」のかけ算
―睡眠の「質」と「時間」はどちらが大切ですか?
睡眠は質×時間という考え方です。どちらも大事で、どちらかが下がると合計点は低くなります。
まずは「時間」について説明しましょう。よく「何時間眠ればいいですか?」と聞かれますが、必要な睡眠時間は人によって違います。
一般的には7時間眠ればOK、5時間を下回ると良くないとされています。
「私は毎日6時間睡眠ですけど大丈夫ですか?」みたいに聞く人は、日常で困ることがなく、居眠りもしないようでしたら、それでいいと思います。
年齢による違いもあります。必要な睡眠時間は若い人ほど長く、年齢が上がるにつれて短くなります。赤ちゃんが一番長くて、20代なら7.5時間、60代なら6.5時間が目安です。
「若いうちは眠らなくて大丈夫」なんて変な誤解がありますが、若い人ほどしっかり眠ってくださいね。
睡眠の質を判断する基準
―若い人ほど長く眠らなければならないのですね。
睡眠の「質」について、精神科医は主に4つの点で評価します。
まずは、寝つけているか。布団に入って20分以内に眠ることができているかがポイントです。2つ目は、途中で3回以上目が覚めていないか。3つ目は、起きる予定時間の2時間以上早く目が覚めて、その後眠れないことはないか。
例えば6時に起きる予定だったのに4時に目が覚めて、もう全然眠れないようなことがないか。4つ目は、起きたときによく眠れたという熟眠感があるか。
睡眠の質がかなり落ちていれば、治療を行います。睡眠薬を使うのは一つの手段ですが、そもそも睡眠が乱れる原因を解決しなければなりません。ただ、すぐに解決するのは難しいので、まずは「睡眠効率」を上げることを目指します。
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意外と知られていない、「睡眠効率」の重要性
―「睡眠効率」とは何ですか?
布団の中で過ごす時間のうち、眠っている時間の割合です。例えば、布団に8時間いて眠っているのが4時間なら、睡眠効率は50%。睡眠効率85%以上を目標にします。
ここで最も大事なのは、眠れなさそうなときは布団に入らないこと。
よくあるのが、11時就寝と決めているからと眠くないのに布団に入り、眠れずに悶々としてスマホを見始めて、夜中2時を過ぎると疲れていつの間にか眠りに落ちているというパターンです。
これでは、自分が不眠であるという認識が強くなり、不安が募って余計に寝つけなくなってしまいます。
布団に入ると自分は眠れる、布団は眠る場所と脳に認識させることが重要なんです。
眠れない人には、睡眠時間の話は横において、まずは眠たくなってから布団に入ることで睡眠効率を上げましょうとお伝えしています。
―眠らなくても布団に入って横になっていれば疲れが取れるという話もあります。
それは良くないですね。睡眠を改善するなら、例えば眠れるかどうか20分ほど試して、頭がさえて寝つける感じがなければ、一度布団から出ることが大事なポイントです。
おすすめのぐっすり眠れる方法
―眠れないときにおすすめの方法を教えてください。
具体例を3つあげましょう。
1つは「温かい飲み物を飲む」「お風呂に入る」など、体温を上げること。
体から放熱されて体温がゆっくり下がるとき、自然に眠気がやってきて寝つきが良くなります。そのためには体温を少し上げる必要があります。
お風呂は就寝時間の1時間前にあがると、だんだん体温が下がっていい眠気がやってきます。
温かい飲み物を飲むと、体の中から温まります。熱すぎると目が覚めてしまうので、70℃くらいがいいでしょう。
2つ目として「目のまわりを温めること」が有効です。今はスマホやパソコンで目を酷使していて、目のまわりの筋肉がずっと緊張しています。
目を温めて血流をアップし、副交感神経をリラックスモードにすると眠気につながります。
ホットタオルは、タオルを濡らしてしっかり絞り、電子レンジ(600w)で40秒あたためると簡単にできます。
もう1つおすすめしたいのは「堅苦しい難しめの本を読むこと」。
人間は退屈・面倒臭い・難しいと感じると、それを緩和するために脳内から眠気を誘う物質が活発に出ます。
例えば大学で難しい授業を受けていたら眠くなるのは、人間の防衛反応なんです。
―えー、難しい話を聞くと眠くなるのは、当たり前だったんですか!
ですから、眠れないときには難しい本がベストです。小説のようにストーリーがあって面白い本は、逆に眠れなくなるので向いていません。
読んでおいた方がいいかなと買ったものの小難しそうで開いていない積読本があれば、引っ張り出して読んでみましょう。
お休み前の行動も、睡眠に関係
―日中の過ごし方も睡眠に関わってくるのでしょうか?注意した方がいい行動があれば教えてください。
注意したいことを3つご紹介しましょう。
1つは「昼寝」です。昼休みに昼寝をすると午後からの作業効率がアップしますが、昼3時以降に昼寝をすると夜の睡眠に影響が出てしまいます。
また、30分以内におさめることも大事なポイント。30分を越えると深い睡眠に入り、起きるのが辛く、起きた後にダルさが残ってしまいます。
2つ目は「カフェインの摂取」。人によって差があるものの、体の中に入ったカフェインの濃度が半分になるのに6時間ほどかかり、濃度が半分あると睡眠に影響があるといわれています。
眠る前の6時間は、カフェインを取らないように意識しましょう。
最後は「夕食の時間」です。就寝の3時間前までに終了するのが理想です。
食事が消化されるのに約3時間かかり、その間は脳が働いているので、眠っていても睡眠の質が低下してしまいます。
そうはいっても帰宅が遅くて3時間は無理という場合は、できるだけ消化のいいものを食べましょう。
精神科に相談した方が良い基準って?
―日本では心の病気にかかる人が増えているものの、病院はまだまだ遠い存在のような気がします。病院に行った方がいいかどうか、どうやって判断したらいいですか?
普段からチェックしておきたいポイントは「睡眠」「食事」「遊び」の3つで、これらが普段と比べてどう変化しているかが重要です。
まず「睡眠」は、これまで11時からしっかり眠れていたのに最近は全然寝つけないとか、7時間眠れていたのに5時間で目が覚めてしまうなど、時間や質が変わっていたら要注意。
普段と違う状態が2週間以上続くようなら、病院に行きましょう。
「食事」に関しては、食欲と味覚の変化に注目します。普段は仕事が終わったらお腹が空いてご飯を食べたいと思っていたのに最近は全然食欲がないとか、反対に過食になる人も結構います。
味についても、しょっぱいものばかり食べる、甘いものばかり食べるというように普段セーブしていたのに歯止めがきかない状態になったり、好きだったものをおいしいと思わなくなったりということが2週間以上続くのは危ないサインです。
「遊び」というのは、例えば普段は休日に遊びに出かけていたのに、家で休む状態がずっと続いている、楽しかった趣味が面白いと思えなくなった、最近は自分の好きなユーチューバーの動画更新を楽しみにしていたのにどうでも良くなってきたという話もよく聞きます。
遊びや趣味への興味・関心がなくなるというのもチェックポイントです。
このような変化が1つでも2週間以上続いていたら、一度受診することをおすすめします。
他の病気と同じように心の病気も早期発見・早期治療が大事で、もっと早く来てくれたら良かったのにと思うケースがたくさんあります。
遠慮せずに早めに来ていただきたいなと思います。
ストレス解消法をたくさん持っている人が強い
―今は「しんどいな」と思いながら生活している人が多いと思います。そんな人にメッセージをお願いします。
僕のところに相談に来られる方は、自分に厳しい人が非常に多い印象です。
今でも十分に頑張っていらっしゃるので、辛いことや嫌なことを耐えて乗り越えるだけじゃなくて、手放しても逃げてもいい。
もっともっと自分を許してあげることがすごく大事だと思います。
あとは、人にも自分にも期待しないことで気がラクになると僕は考えています。
人に期待するから、思ったようにならないとイラっとしたりガッカリしたりするので、最初から期待はしない。
自分にも期待しないというのは前向きな意味で、自分のかわりなんていくらでもいると思っている方がラクに生きられる。
全部自分がやらなければと追い込まず、他の人にお願いしてもいいのです。
そしてもう1つ、ストレスがたまったら解消するように心がけましょう。
意外とそこが抜けている人が多いようです。そのためには、自分なりのストレス解消法をたくさん持っている人が強い。
ストレスに強い人というのは、ストレスを受けてへこまない人ではありません。へこんだ後にリカバリーできる力がある人なんです。
生きていれば嫌なことや思い通りにならないことがいっぱいあって、みんなストレスを感じてへこむけれど、リカバリーするためにストレス解消法があった方がいい。
自分なりのストレス解消法をたくさん作っておいてほしいと思います。